AIの答えを左右するのが文脈なら、役に立つプロンプトは長くなります。
使っている環境。変えられない制約。すでに試して失敗した方法。一般的な解決策が、今回は使えない理由。キーボードに手を置く前から、必要な材料は頭の中にあります。
それでも実際に打つと、依頼の本体だけになりがちです。背景を一つ削り、例外を一つ削り、「足りなければ後で補えばいい」と送る。
AIは、送られた範囲に答えます。
では、全部話せばよいのでしょうか。手で打つには長い説明も、声なら一度に出せます。ところが文字起こしを見ると、冒頭が二度始まり、途中で捨てた言い掛けが残り、「今のは違う」という修正指示まで文章に混ざっています。
手入力は、必要な情報が消えることで壊れます。音声入力は、思考の途中まで残りすぎることで壊れます。
Macでプロンプトを音声入力するときに必要なのは、ただ高精度に文字へ変えることではありません。話した内容から意味を落とさず、入力欄へ届ける形だけを選ぶことです。
手で短くすると、答えを決める文脈から消える
プロンプトを短くするとき、最初に消えるのは何でしょうか。
「○○を作ってください」という依頼の本体は残ります。書かなければ何も始まらないからです。先に落ちるのは、その依頼を正しく解釈するための文脈です。
使っているフレームワークのバージョン。火曜日に試して失敗した方法。既存スキーマを変えられない事情。前回の回答が惜しかった理由。明らかな方法を採用できない例外。
どの一文を削るか決めているのは、重要度ではありません。打つ手間です。そして手間は、どの条件が答えを変えるのかを知りません。
TalkTalkTypeは、キーを押して話し、離すまでを1回のdictationとして数えます。40語でも400語でも、録音が一回なら1回です。これだけでプロンプトが上手くなるわけではありません。
ただ、必要な前提を「長いから」という理由だけで捨てる圧力は弱くなります。
音声入力は、情報が残りすぎることで壊れる
話せる量が増えれば、そのまま良いプロンプトになる。そう期待したくなります。
しかし、話し言葉には、打ち言葉とは違うノイズがあります。文を始めてから言い方を変える。詰まって間投詞を入れる。途中で条件を思い出し、前の説明へ戻る。「今の点を先に置いて」と編集の指示を口にする。
これは音声認識の失敗ではありません。実際に声に出した以上、忠実な文字起こしほど正確に残します。
手で打ったプロンプトは、足りないことで失敗します。話したプロンプトは、残りすぎることで失敗します。
だから、認識精度が高いだけでは終わりません。最後に必要なのは編集の判断です。どの語を守り、どの言いよどみを落とし、どこまで文章を組み替えるのか。その判断は、テキストの行き先に合わせて変わります。
選択はCleanかRawか、プリセットの一覧ではない
TalkTalkTypeは、この判断をCleanとRawの二択として置きます。行き先を選ぶプリセットの一覧も、書き換え用のモードもありません。
Cleanは、忠実さを優先する軽い整形です。話した語、語順、丁寧さの度合い、短く言った意図をすべて保ち、意味が変わらない範囲で明らかな言いよどみだけを取り除きます。言い換え、補完、要約、敬語化はしません。「よろしく」は「よろしく」のままで、「よろしくお願いします」へ伸ばしません。結果は改行のない1行で返ります。
Rawは、文字起こしをそのまま返します。整形のモデルは動きません。最初に見えるのは、自分が話したそのままです。
二つは別の録音を担います。Cleanは、正確な言い回しそのものが要件になる録音に向きます。わざと不格好に言った箇所も、短く言い切った部分も残せます。Rawは、自分で直す前提の録音や、整形で丸められると困る固有名詞を含む録音に向きます。
どちらも、プロンプトを勝手に書き換えません。それは意図的な設計です。ホットキーを押した瞬間、アプリはフォーカス中のアプリケーションを取得し、カーソル下の欄を固定の対応表で分類します。推測ではありません。整形後の結果は下書きとして届き、最初の貼り付けは忠実なままです。形を変えたいとき、たとえば話しただけの長い説明をより引き締まった指示にしたいときは、任意のVoice Patchで、挿入前に言い直しの指示を声で加えられます。その場合も、最初の貼り付けを黙って書き換えることはありません。Macの状況に応じた音声入力で、行き先の読み取りと、適応が起きる場所・起きない場所を追っています。
CleanとRawは、すべてのプランで使えます。プランの違いは、週のディクテーション回数、音声時間、クリーン入力の上限、録音の長さであり、実行できるモードの種類ではありません。
二つのモードを並べると、次のようになります。
| モード | 保つもの | 変えるもの | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| Clean | 話した語、語順、丁寧さの度合い、短く言った意図をすべて保ちます | 明らかな言いよどみだけを取り除きます。言い換え、補完、要約、敬語化はしません | 言い回しそのものが要件になる録音。わざと不格好に言った箇所も残ります |
| Raw | 文字起こしをそのまま返します | 何も変えません。整形のモデルは動きません | 自分で直す前提の録音や、整形で丸められると困る固有名詞を含む録音 |
選んでいるのは、文章の「きれいさ」ではありません。自分の言葉を、どこまでサービスへ編集させるかです。
回数で数えると、一回の中で言い切る方が得になる
Freeは週30ディクテーション、音声15分で、一回あたり最長60秒です。Plusは月1ドルで週80回・30分、Proは月7ドルで週500回・250分、一回の上限は120秒。Maxは月18ドルで週1200回・600分です。現在の内容は料金ページで確認できます。
整形には別枠があります。週あたりのクリーン入力は、Freeが20回、Plusが60回です。ProとMaxにクリーン専用の上限はありません。Rawは、整形のモデルを動かさないため、この枠を使いません。
上限の単位が変わると、使い方も変わります。
一回の録音中に言い直しても、dictation回数は増えません。条件を話し、違うと気づき、その場で修正し、捨てた半分の文を整形で落としてもらう。一方、キーを離して最初から録音し直せば、二回目として数えられます。
完璧に話そうとして途中で止めるより、多少崩れても最後まで言い切る方が、この仕組みには合います。
FreeとPlusの60秒は、実際に効く境界です。一つのプロンプトとしては十分に長い。しかし、何も整理せず話し続けるには短い。背景、依頼、制約、例外を一回で言い切るには、話す前に問いの芯だけは決めておく必要があります。
音声入力は、考えなくてよい道具ではありません。
考えた内容を、タイピングの負担で削らずに渡す道具です。
元のカーソルへ戻らなければ、中断は消えない
⌥Spaceを押したまま話し、離します。完成したテキストは、録音前にフォーカスしていた欄へ戻ります。CursorやChatGPTのプロンプト欄、直前まで入力していたターミナルなどです。
直接貼り付けにはmacOSのアクセシビリティ権限を使います。保護されたアプリや管理環境が自動入力を拒む場合は、結果をクリップボードへ残します。TalkTalkTypeはmacOS 26以降のメニューバーで動作します。
プロンプトでは、文字の行き先が特に重要です。対象のコード、エラー、直前の回答を画面に置いたまま、足りない説明を話すからです。別のウィンドウへ移って口述し、結果をコピーして運び戻すなら、消したかった中断が別の形で戻ってきます。
フォーカス位置へ文字を返す経路と、その限界は、Macのどのアプリでも使える音声入力で扱っています。
音声、整形前の文字起こし、整形後の文章は、サービス側にコンテンツ履歴として保存されません。Macアプリの短い作業履歴はメモリ上にあり、終了時に消えます。一つの録音がMac、プロバイダー、サービス、クリップボード、入力先をどう通るかは、Macのプライベート音声入力で順に追っています。
追加説明が必要だった三つのプロンプトで試す
新しい用途を考える必要はありません。過去の履歴から、最初の回答が惜しく、その後のメッセージで前提を補ったプロンプトを三つ探します。
一回目では何を削ったでしょうか。変えられない制約。すでに失敗した方法。欲しい出力形式。避けたい一般解。二回目以降に書き足した内容が、最初から必要だった文脈です。
その三つを、制約、試した方法、例外まで含めて、一回の録音で話し直します。Cleanで整え、同じ入力欄から送ります。
比べるのは、文章の見た目だけではありません。
最初の回答に対して、追加の説明がまだ必要か。モデルが推測で埋めていた部分が減ったか。自分がタイピングの手間だけを理由に落としていた条件が、回答へ反映されたか。
Macアプリのダウンロードは無料で、この比較は週の無料枠で試せます。
ただし、音声入力だけでは片付かない録音もあります。自分でも何を尋ねたいのか決まっておらず、話しながら問いを探している一本です。その場合、整形の問題より前に、問いを小さく分ける必要があります。
声は、頭の中にない答えまでは作りません。
しかし、すでに頭にある前提を、入力の面倒さで捨てずに済ませることはできます。